濱口生化学振興財団は、ヤマサ醤油株式会社が元社長11代濱口儀兵衛在任時に生化学研究開発に着手し、新事業を展開したことを記念して、生化学の進歩によって享受してきた利益の一部を社会に還元し、千葉県下における生化学研究を助成することを目的として1988年(昭和63年)4月5日、千葉県銚子市に設立されました。
 18世紀の末に、フランスの化学者ラボアジエ(Lavoisier 1743-1794)はアルコール発酵現象を研究し、糖からアルコールと二酸化炭素が生成することを証明しました。これが生化学の始まりといわれています。生化学は当初から発酵ひいては醸造に深くかかわっていたのです。 370年以上にわたって千葉県銚子市で醤油醸造を営んできたヤマサ醤油株式会社は、その意味で本質的に生化学を基盤に発展してきた企業と申せましょう。
 ラボアジエの研究をきっかけに、生化学は生命現象の化学的解明を目指して急速に成長しました。生命現象に不可欠な蛋白質、核酸、脂質、ビタミン、ホルモン、免疫調節物質など 各種生体物質の構造と機能の関係、代謝機構、調節機構などが次々に解明され、さらに生命現象の根源である遺伝情報発現の分子機構も、精力的に究明されつつあります。 このような生化学の進歩を基礎に、バイオテクノロジーが今、大きく花開こうとしており、生化学研究の重要性は、今後ますます増大するものと思われます。
 ヤマサ醤油株式会社は、醤油醸造という生命現象との永年にわたるかかわりを基盤に、1953年(昭和28年)に國中明(ヤマサ醤油元常務取締役、当財団元常務理事)を中心に核酸の生化学的研究を始め、その成果を1961年(昭和36年)に企業化して、核酸の酵素分解による新調味料、医薬品原料の生産を開始しました。この新規事業創始は1987年(昭和62年)2月に死去した元社長11代濱口儀兵衛の英断によるものであり、 鰹節のうま味イノシン酸と椎茸のうま味グアニル酸を同時に核酸から生み出して複合調味料時代を現出したばかりか、各種核酸関連化合物を生化学研究用試薬、新規治療薬として 開発し、また免疫反応に基づく新規診断薬を世に提供する道を開きました。ヤマサ醤油株式会社は伝統的醤油醸造専業から脱皮し、深く生化学分野にかかわるようになったのです。
 人類は今、何よりも生命を大切にするいわば生命文明の夜明けを迎えようとしています。生命を大切にするには、まず生命を生化学的に深く理解せねばなりません。濱口生化学振興財団が、千葉県下における生化学研究を助成することによって、いささかでも生化学振興に寄与し、人々のより健康で豊かな生の享受に役立つことを願って止みません。

一般財団法人 濱口生化学振興財団
代表理事 濱 口 道 雄